不安な時、なぜ「誰かと一緒にいたくなる」のか?

人は学校や職場、あるいは家の近くなどにいろいろな友人をつくります。ことに自分がとても不安な気持ちになった時には、誰か親しい人が必要になり、その人と一緒にいたいと望みます。例えば、試験の合格発表を見に行く時や、身体の具合が悪くなり、初めて病院に行く時などには、両親や親しい友人と一緒に出かける人が多いものです。このように、人が人を求める心理・・・「親和欲求」と呼ばれています。これを明らかにした実験があります。

その時、誰と一緒にいたい?

シャクターは、親和欲求を確かめるために、こんな実験をしています。実験に協力するためにやって来た女子大生は、一つの実験室に案内されます。その部屋には、医科大学のグレガー・ジルスタイン博士と名乗る白衣を着た男性が待っています。ジルスタイン博士は、この学生に、「電気ショックの心理学的効果を調べる重要な研究に協力して欲しい」と言います。そして、この実験では、いろいろな強さの電気ショックを与え、その聞の脈拍と血圧の変化を測定する、と説明します。

この後からか実験操作になります。女子大生の一つのグループに対しては、ジルスタイン博士は気味の悪い声で、電気ショックはかなりの苦痛を与えるかもしれないが、皮膚を傷つけたりはしないということを、強張った笑いをまじえて説明します。もう一つのグループに対しては、ジルスタイン博士は電気ショックはちくっと痛む程度で、たいして不快なものではないということを、親切にしかも安心感を与えるように説明します。

このような状況をつくった後で、ジルスタイン博士は女子大生に、「実験の準備をするあいだ別の部屋で待っていてほしい」と言います。この時、その待ち方として「個室で一人で待っていたいか」あるいは「他の同じような仲間と一緒に教室で待っていたいか」を尋ねました。この質問に対する答えか、この実験の目的とするものでした。実験はここで終わりになります。この実験の結果は、強い不安の状態におかれた多くの女子大生は他の人と一緒にいることを望んだのでした。

人が不安な気持ちになった時には誰かと一緒にいたいと願うことはわかりましたが、一緒にいる相手は誰でもよいというわけではありません。望ましい仲間として、自分と同じような境遇の人で、自分とどことなく性格の似た人を選ぶようです。「同病相哀れむ」という諺もあるように、似たもの同士が肩を寄せ合って生きていこうとする人間の習性を見ることができるわけです。例えば、病院で自分と同じ病気の患者と話をすると、何となく心の休まる思いがするのはこうしたわけなのです。

他の人を求める親和の傾向は、第一子やひとりっ子に強く見られるようです。このことは、依存性についての両親のしつけの仕方によって説明されています。第一子に対しては、後から生まれてきた子供に比べより多くの援助を与え、しかも、要求もより多く受け入れてしまう傾向があるので、第一子は、不安や心配のある時にはいつも親(あるいは他の人)に頼ろうとするようになるわけです。このような学習をした第一子は他の兄弟に比べて、不安になると、安心や慰めのために他の人を求めることが多くなるということになります。

では後から生まれた子供はどうかというと、さまざまな困難な問題を独力で解決しようとするので、結局大人になってから酒に溺れてしまうことになるとも言われています。ところで、人は一緒にいる他の人に、一体、何を求めているのでしょうか。第一に考えられるのは、心の安らぎということです。他の人と一緒にいるだけで自分の気持ちが休まるからです。さらに、その人からいろいろな情報を得ることで、これから起こる事態に対応しやすくなるということもあります。

もう一つ考えられるのは、一緒にいる他の人の様子を見ることによって、現在の自分の状態を知ることができるということです。試験のための会場で、一緒に受験する人の様子がやたらと気になるのは、その時の自分の精神状態があやふやなので、それを確かめようとしているわけです。このような時には、落ち着いて本を読んでいる人に注目していると、自分も自然と落ち着いてくることになります。

一般的に、人が自分の能力や性格、ものの考え方、その時どきの感情の状態などをできるだけ正確に知ろうとする時には、自分とよく似た境遇の人を比較の対象として選ぶということをごく自然にしているのです。

「一人になりたい時」の心の中は?

一方で、ごく身近な大や最愛の大に何か不幸があった時には、他の人から慰められたりするのを嫌って、たった一人で部屋に閉じこもってしまいたいと思うこともあります。1963年にアメリカ大統領だったケネディがパレード中に暗殺されるという事件が起こりました。この事件の数日後に、世論研究センターによって、この悲劇的な事件についての全国的な調査がなされました。その調査の中に、「この事件を知った時に、あなたはどうしましたか」といった主旨の質開かあります。これは、親和欲求についての質問になります。

悲報を聞いた人の54パーセントは、他の人と話をしたいと思ったと答えました。また、40パーセントの大は、一人でいたかったと答えています。一人でいたかったと答えた人の多くはケネディを深く愛しており、強い賞賛の気持ちをもっていたことかわかりました。

ここで注目されることは、自分の経験した悲しみがあまりにも強かった人は、他の人の前で自分の気持ちを表わすことをためらったということです。こうしたためらいは、感情をやたらに表わすことは男らしくないといった性役割を学習している男性において一層大きいと思われます。人が、他の人を求める欲求をもつ一方で、一人になりたいという願望ももつということは、人間の心理の複雑さを示していると言えます。

— posted by pippin at 09:31 pm