人恋しくなって開放感を味わいたくなる心理

会社や学校からの帰りに、何となく人ごみを求めて盛り場に行きたくなることがあります。特別な目的かあるわけでもなく、一人でぶらぶら歩き回るのは、日常生活からの解放感を味わえるからです。盛り場の中で知り合いに声をかけられたりすると、びっくりすると同時に、何ともバツの悪い思いをすることもあります。人に見られるとまずいことをしているわけでもないのに、うしろめたさを感じるのは、社会的な場面での自分から逸脱した自由を楽しんでいたからなのです。

例えば、会社での地位や家での良き父親役をかなぐり捨てて、一個の匿名の人間に変身していたのに、突然現実に引き戻されるということです。人ごみを求める心理について、立命館大学の池井望教授は「現代娯楽の構造」の中で次のように述べています。

人は人ごみの中で、自分の内面にしみついた生存のための息苦しい秩序を壊そうと試みています。そこで日常性を否定し、不真面目であろうとするのです。このようなことから、雑踏の中では自由であると同時に不安であり、また、日常の規範を逸脱した解放感とともに、うしろめたさを味わっているのです。

都市の魅力というものは、こうした二面性の上に成り立っているということがよくわかります。このような人ごみの魅力があるからこそ、都市が多くの人を引き付けていると言えるわけです。アメリカのミネアポリス市の中心街ニコレット・アベニューの商店街では、町の活気を取り戻し、売上げを伸ばすために、道路をS字型に蛇行させて人ごみが生じるように、都市の再開発をしました。こうした結果、車の渋滞と人ごみが生じて町がよみがえったそうです。横町、下町の魅力もそういったところにあるのかもしれません。

人はなぜ「寄り道」をしたがるのか?

人ごみを求める行動についての調査があります。地域社会研究所の高山英華さんたちは、都市のサラリーマンの生活圏とその行動を調べています。朝自宅を出て会社に着き、そのまま外出しないで会社内にいて、まっすぐ自宅に帰るという「単純直行型」は、平日の場合、男性で約40パーセント、女性では約50パーセントです。また、昼休みの外出、帰宅途中の駅近くでの買物、帰宅後の外出といった、広い意味での「直行型」は半数以上の男女に見られます。

休前日になると、まっすぐ家に帰る男女の割合はきわめて少なく15パーセント程度で、寄り道する人の多くなることがわかります。また、男女ともに30パーセント程度の人は、会社を中心として近隣地域の盛り場に寄り道しています。特定地域に寄り道をするのは、休前日は男女とも10パーセント弱、平日では男性16パーセントに対し、女性は23パーセントでした。

平日で女性が特定地域に多く寄り道をしているのは、各種学校やけいこごとに通っている女性が多いためです。この研究から、平日でも約4割の人が寄り道をし、土曜日になると7~8割の人が寄り道をしていることがわかりました。人ごみを求めて寄り道をしているとは限らないわけですが、勤め先の人間関係を人ごみでいったん断ち切ってから、家に帰る人の多いことが予想できます。

「人だかり」が「人だかり」を呼ぶ理由

街を歩いていると、時々人だかりのしていることがあります。そんな時、何があったのか、ついのぞいてみたくなります。こんな人の心理を確かめてみましょう。一人で歩いている時と、友人数人と歩いている時の2つのパターンで試してみます、なるべく通行人の邪魔にならない場所を見つけて、1分間ほどビルの窓を見上げていてください。別の実験場面として、街頭販売のひやかしを利用する方法があります。1人の時と、グループの時の人だかりのでき方の違いを観察してみましょう。

「サクラ」の人数と売上げの関係

ニューヨークシティの路上で、こんな実験が試みられています。さまざまな人数で道路の反対側にあるビルの6階あたりを、1分間ほど見上げています。この時そこを通りかかった人々がこの人たちの様子を見て、どのように反応するかを、見上げられているビルの6階から観察します。

この実験では、通行人が立ち止まる割合と、立ち止まって一緒にビルを見上げる人の割合を調べています。結果を見ると、ビルを見上げている人数が5人以上になると、通行人の8割の人が立ち止まって、一緒にビルを見上げることがわかりました。

街頭販売の時に、サクラを使った呼び込みをすることがあります。そんな時には、2、3人以上のサクラがいた方が客の足を止めるのに効果的だといえそうです。そうして、5人以上の人だかりができたら、売上げは飛躍的に増加することになるでしょう。

— posted by pippin at 11:59 pm