何となく窓から外を見たくなるのはなぜ?

たった一人で長い時間部屋の中にいると、窓を眺めて、外にいる人の動きや風景を見たくなることがあります。こんな時には、いつも見なれた光景であっても、何となく一生懸命見てしまうものです。単独登山を好む登山家や単独で世界を一周するヨットマンなど例外的な人もいますが、たいていの人は長時間の孤独に耐えられないものです。携帯用CDプレーヤーなどが流行したのも同じような理由によるのかもしれません。聞き慣れた音楽を聞いていると、親しい友人と話をしているような気持ちになるので、孤独感が癒されるのでしょう。

五感の刺激がなくなると、人は三日も耐えられない

人は新しい刺激によって、常に自らの五感を刺激している必要があります。こうした現象を、ヘロンたちは実験によって確かめています。狭い部屋に男子大学生を一人ずつ長時間閉じこめてしまいます。この部屋は、できるだけ人間の感覚器官を刺激しないように工夫されています。大学生には、半透明の保護メガネをかけさせて視覚刺激をできるだけ少なくします。

その他、手には木綿の手袋をはめ、そで口には長い筒をはめ、また、頭には気泡ゴム枕を当ててそれぞれの触覚刺激を制限します。部屋には防音装置がしてあり、聴覚刺激も制限されています。こうした状態で、学生は日に24時間、食事と排泄の時以外は、快適なベッドに横にならされていたのです。

1日20ドルの報酬(当時としては、かなりの高額であった)が支払われたのにもかかわらず、この孤独な実験に、2日ないし3日以上耐えられた者はほとんどいませんでした。最初の4時間から8時間は何とかもちこたえるのですが、それ以後になると、イライラして落ち着かなくなります。刺激を求めて歌ったり、口笛をふいたり、独り言を言ったりし始めます。

実験が数日続くと、リスが行進している光景が見えるとか、音楽が聞こえるとかいった幻覚か出現します。4日後になると、手が震えたり、まっすぐ歩けなくなったりします。質問に対する反応は遅くなり、思考に混乱が生じますが、ちょっとした痛みにも敏感になり、身体的刺激には過敏に反応するようになりました。

実験室に入る前と実験中および実験終了後に、ごちゃまぜの文字から単語をつくったり、ある単語の文字から、できるだけたくさんの別の単語をつくる、という作業をさせます。2日目になると間違いがきわめて多くなりました。物事に気持ちを集中して考えることができなくなっていることがわかりました。もとのレベルまで戻るには、実験が終わってから3日以上の期間が必要になるようです。

このような実験から、人間の心が正常に働くためには、常に外からの新しい刺激が必要であることがわかりました。レーダーの監視員や長距離の運転手が、実際にはない物を見てしまったり、高層住宅の物音のほとんどしない小さな部屋に、昼間一人だけでいなくてはならない主婦が、突然強烈な不安に襲われたりするのも、実験と似たような状況におかれたからだといえます。

感覚の剥奪には、人の思想やものの考え方を変えさせてしまう力があります。人を感覚の剥奪状態におくと、批判的能力が阻害されてしまい、どんな不合理な意見にも熱心に耳を傾けるようになり、やがてそれを信じ込むようになるといわれています。

これは「洗脳」と呼ばれていますが、長期間の合宿をして、精神教育をするといった類のものは、こうした方法を利用しているわけです。犯罪者を独房に閉じこめるというのも、似たようなことなのかもしれません。

— posted by pippin at 01:44 am