八割の人が一度は転職を考えたことがある

管理職になって仕事も増え神経も使って苦労することに対してもらう給料の額(労働の対価)を考えると、全国一律賃金の大組織で地方勤務をするのが、いちばん「利益率」がよいというのはおわかりだろう。しかし、人間はこうした算数の世界だけで生きているわけではない。あまり出世しないと、同窓会でエリート社員になった幼なじみと会ってプライドが傷つくとか、年下の上司にこき使われてストレスが溜まるといった精神的ダメージがどうしても出てくる。

大ざっぱにいうと、社内での昇進に全力を注ぐ(偉くなる)か、大組織の地方勤務に徹する(楽に生きる)か、サラリーマンはこの二つの生き方を両極端として、そのあいだのどこかに自分の居場所をみつけてきたといえよう。サラリーマンの多くが、自分の生き方はこのままでいいのか、やはり出世したい、出世なんか気にせずにゆとりを持った生活がしたい等々、ときにふと悩んでは心があっちの極に振れ、こっちの極に振れしながら、人生を送っているわけである。

この悩みは、サラリーマンであれば程度の差こそあれ、いまも昔もそんなに変わらないだろう。ここで、前の記事で書いたキーワードの転職(⑨)が出てくる。まずは昔のサラリーマンである。20年くらい前までの日本社会では、転職なんかするのは落ちこぼれだという雰囲気が漂っており、いまや花盛りの転職雑誌などは一冊もなかった。

ところが、ある新聞社が実施した当時のアンケートをみると、「あなたは転職を考えたことがありますか?」という質問に、八割の人が「一度は考えた」と答えているのである。これには、たまたま上司から叱られた直後の人もいただろうし、赤ちょうちんで会社の不満をぶちまけたあとの人もいただろう。もちろん、本気で会社を辞めたいと思っている人もいただろう。

いずれにせよ、転職する人間は落ちこぼれといわれる時代であり、転職者には不利な年功序列賃金体系の時代にあっても、八割のサラリーマンが転職を考えたことがあるというのは興味深い。ましてや、20年前とは社会のムードもシステムも大きく変わったいまでは、転職を考えたことがない人など、ほとんどいないといっていいのではないか。

実際、某月刊誌でやっていた悩み相談のコーナーには、20代~30代のビジネスパーソンから毎月、山のように転職の相談が寄せられた。もうしばらく会社に残って課長くらいはめざしたほうがいいのか、出世レースから外れたがこのまま楽に生きようか、いまの会社はつまらないので転職したいのだがと、出世と転職の狭間で悩んでいる人がこのごろ多くなったことが実感できる。

— posted by Chapman at 11:42 pm