順調にエリートコースを歩いていたが銀行合併の嵐で年収が激減

ある銀行マンがやってきた。彼はいま50代前半である。彼とはもう20年ほどのつきあいになる。まだボストンコンサルティンググループ(通称BCG)で駆け出しの経営コンサルタント時代、大手自動車会社のコンサルティングをしていたときだ。どこからか私の名前を聞きつけて、コンサルティングの仕事をいろいろ教えてくれと訪ねてきたのが始まりである。

当時の彼は大手都市銀行の調査部にいたのだが、まだ社会的に認知されていない経営コンサルタントという仕事に興味を持って訪ねてくるくらいだから、なかなか勉強熱心な銀行マンだったといえる。実際に彼は、その後、順調にエリートコースを歩いていった。若くして地方の支店長に抜擢された。その銀行の歴史上いちばん若い支店長の誕生だったという。

東京に戻ってからも、40代のうちに2つの部署で部長を務めた。これなら「自分は出世コースに乗っている」と思ってしまっても無理はない。ところが、やがて銀行合併の嵐がやってくる。合併さえなければ、役員になるのは間違いなしといわれていた彼だが、その夢も消えてしまった。日本の大企業では、彼のように本社の役員になれなかった者たちは、子会社に移るのが一般的なパターンである。

彼も今年、子会社の執行役員に転籍することになった。その子会社は業績の悪い会社ではないし、来年には常務になれそうだが、仕事自体は自分のキャリアを活かせるものではなく、働きがいも感じないという。しかも、問題は年収が大幅ダウンしたことにある。じつは大手都市銀行の部長時代には2000万円あった年収が、合併でメガバンクになったにもかかわらず1600万円に落とされ、さらに子会社に移って執行役員になったというのに1200万円に下がってしまったという。それでも世間からみれば、このご時世にリストラに遭うこともない彼は、恵まれているほうだし、年収も決して少ないわけではない。常務になれば、年収アップも期待できる。

ただし彼のプライドが現状に満足を許さないらしい。銀行に残っている元の部下たちをみると、「そんなに大した能力を持った連中ではなかったのに」と彼が思っている人たちがM&A(企業買収)で活躍したり、VC(ベンチャーキャピタル)などのファンドを運用して何百億円という資金を動かしている。彼らにできるのなら、オレも転職してそういう仕事をしてみたい。あるいは、長年やってきた調査のキャリアを活かして、どこかのメーカーの役員に招かれて、経営戦略を練るような仕事をやってみたい。そんな希望がふつふつと湧いてきて、私のところに相談にきたというわけである。要は、「クライアントのなかで、よい転職先はないか」といっていることはよくわかった。

— posted by Chapman at 10:57 pm